2008.12.05
Web Directions East 2008 カンファレンスレポート(後編)

11月7日(金)〜9日(日) に開催され、豪華なゲストが注目されたWeb Directions East 2008。レポート後編では、カンファレアンス後半の模様をお届け。
世界中から、ウェブの最前線で活躍する一線級の人たちが東京に集る、注目のイベントとなった「Web Directions East 2008」。初日のカンファレンスデイとなった11月7日、会場のベルサール西新宿には多くの来場者が集る盛況ぶりでした。オープニングでは、WWWの生みの親であるTim Berners-Leeもビデオレターで登場するなど、これまでの日本のセミナーやイベントでは類を見ない、豪華な顔ぶれによる贅沢なイベントとなりました。
withDもメディア協賛としてサポートした本イベントの前半に引き続き、後半のレポートをお届けします。後半はテクニカルなトピックから少し離れ、ユーザービリティテストとデータビジュアライゼーションに関する興味深い2つのセッションを取り上げます。
Andy Budd - 高効率・低コストで行うユーザビリティテストの仕組み
イギリスのWebデザインスタジオ、clearleftでユーザーエクスペリエンス(以下、UX)デザイナーとして活動するAndy Budd氏による「ゲリラ・ユーザビリティテスト」と題されたセッション。耳慣れないフレーズですが、果たして彼の意図はどのようなものだったのでしょうか?
- 現代のインターフェイスデザインに求められるもの

Andy Budd氏(左)とclearleft社のWebサイト(右)
彼が話しはじめたのは日本の切符券売機について。彼は日本の切符券売機の使い方がさっぱりわからなかったそうなのです。引き合いにBudd氏が出してみせたのが、香港の地下鉄の券売機。券売機自体が路線図を兼ねていて、図上の行き先を押せば切符が買えるとのことで、確かに非常に合理的ですね。このように、同じ目的に対してなぜ全く違ったデザインが行われるのでしょうか?
「コンピューターは昔のように単純な機械ではないからだ」とBudd氏は言います。昔の機械と違って、現代の切符券売機のような複雑な機械は、もはや機械の外観から仕組みや使い方を理解することはできません。そのような状況では、適切なインターフェイス(以下、UI)のデザインを通じて人々が使えるようにすることが必要だとBudd氏は説明します。

Andy Budd氏が開発したソフトウェアSilverback
UIによってユーザーに適切なメンタルモデルを構築させることは、UXやユーザビリティを考える上で基本的かつ重要で、Jeffrey Veen氏も著書「戦うWebデザイン」で同様のことを述べています。そして、認知心理学者のDonald Norman氏は著書「エモーショナルデザイン」で、正しいメンタルモデルを提供できているかを確認するにはユーザーテストをするしかないと言い切っており、良質なUXの提供にはユーザビリティテストは必要不可欠だと言えそうです。
- ユーザビリティテストは気軽にできる
でも、ユーザビリティテストと大仰なユーザー観察シーンを想像しがち。Budd氏が掲げる「ゲリラ・ユーザビリティテスト」は、そんなイメージを覆す必要十分で役に立つテストの考え方です。Budd氏によれば、ユーザビリティテストの目的である潜在的な問題を洗い出すには……
- あらかじめ用意したタスクをやってもらう
- その中でユーザーが何を考えたかを発話してもらう
- ユーザーの意見を聞くのではなく、その行動を観察する
……ことが重要なのだといいます。では、ゲリラ・ユーザービリティテストのポイントを整理してみましよう。
| 簡易かつ早い段階で行う | モックアップやペーパープロトタイプなど簡易な成果物でも十分なので、早い段階でテストを行う。初期に大きな問題を発見できれば、確実にアウトプットの質を向上させることができる |
|---|---|
| テストは5〜6人で十分 | 最初の5人で問題の80%以上が洗い出せる。また、早い段階で素早くテストを行うには小規模な方がフットワークが軽くて都合がよい。ユーザービリティ研究の第一人者であるJakob Nielsen氏も昔から同様のこと(その1/その2)を説いている |
| 具体的に タスクを設定しない | 背景と目的を設定して、具体的な行動はユーザーに考えてもらう方がいいとのこと。例えば「アンケートフォームから問い合わせをしてください」ではなく「この会社の製品に不備があったのでそのことをWebサイトから連絡してください」という形の方が望ましい |
- フットワークの軽いユーザビリティテストを実現するSilverback
単にユーザビリティテストの重要性を説くだけでなく、そこに至るまでの考え方や具体的な方法の説明、さらにはそうした方法を実現するためのソフトウェアまで開発してしまうBudd氏の言葉は、終始説得力に満ちたものでした。
Mike Migurski - Visualization A Web Of Data
カンファレンスの最後に登場したのは、Mike Migurski氏。Migurski氏はStamen Design(サンフランシスコ)でCTOを務めています。Stamen DesignはいわゆるWebデザインファームとは違い、データビジュアライゼーションに特化した会社です。
セッションはStamen Designの「鉄の三角形(Iron Triangle)」と呼ばれている以下の3つのポイントを軸に、事例を紹介する形で進められました。
| Live(即時性) | ユーザーが見た時点でのデータを反映する即時性(ライブさ) |
|---|---|
| Vast(広さ) | Google Mapsのように限りなく広範囲をカバーすること |
| Deep(深さ) | データは濃密に絡み合っている |
- Live - Digg Labs Swarm
swarmはDiggとのコラボレーションによるプロジェクト。Diggはソーシャルニュースサイトとも呼ばれる、英語圏ではポピュラーなサービスでWeb上の様々なニュースをユーザーがランク付けすることができます。ユーザーは、はてなブックマークにおいて「ブクマする」という言い方をするように、「Diggする」と動詞として使ったりもします。

Mike Migurski氏、スライドよりswarmのビジュアライゼーション(右)
データビジュアライゼーションの一つは、ニュースの注目度の時間軸における変化。右図は、あるニュースが最初にDiggされてから時間が経つにつれてどのように注目を集めていったかを表現しています。それに対し、あるニュースをDiggしたユーザーが他のどんなニュースをDiggしているかという、興味軸でデータを表現することも可能です。 これらのデータはリアルタイムのものを使用しており(swarmで体験できます)、まさに「Live」といった印象でした。
- Vast - Trulia Hindsight
広い領域をカバーするデータがもたらすビジュアライゼーションの事例として取り上げられたのは、不動産情報を題材にしたTrulia Hindsight。このプロジェクトは過去の住宅開発のデータのビジュアライゼーションも試みられています。

スライドよりTrulia Hindsightのビジュアライゼーション
左図は、ある街の過去から現在までの住宅のデータをアニメーション表示したもので、街が郊外に広がっていくのがわかるといいます。 一方の右図は、価格帯ごとの住宅の分布をビジュアライズしたもの。地域の性質が分かったり、アニメーション化することで住宅価格帯や街の変化の様子を知ることもできます。大量のデータベースから得られる様々な情報を理解しやすくするには、適切なビジュアライゼーションが有効な手段のようです。
- Deep - SFMOMA ArtScope
最後はSFMOMA(サンフランシスコ現代美術館)のArtScopeというプロジェクト。Google Mapsのような地図サイトと同様の技術を用いており、大量の美術作品を並べた中から任意の作品の任意の箇所を拡大して表示する、という表現を実現していました。

スライドよりSFMOMA ArtScopeのビジュアライゼーション
この事例は階層的な深みを表現しただけではありません。今や多くのサイトで使われる標準的なインターフェイスにもなっているため、多くのユーザーにとって使いやすいという実利的な意味もあるのでしょう。
- インタラクションを前提とした情報デザイン
お二人の話から感じたこと
インターネット時代になって、私たちはそれ以前とは比べものにならないくらい大量の情報と向き合うようになりました。また、それらの情報は時々刻々とダイナミックに変化していきます。情報を利用する側のニーズもどんどん多様化していった現代においては、スタティックな1枚のビジュアルでそのニーズを満たすことはもはや不可能と言っていいでしょう。
- ユーザーの要求を受け付けるためのUI
- そのUIを通したメンタルモデルの提供
- 情報の理解を促すデータビジュアライゼーション
- 全体的なエクスペリエンスを検証・改善するためのユーザーテスト
それぞれはこれまでも課題として認識されていましたが、今回のカンファレンスで二人のセッションに参加したことで、これらは決してバラバラの課題ではなく、現代の情報デザインにおいてどれも欠かすことができないプロセスの一部なのだ、ということを改めて知ることができたように思います。
関連リンク
Web Directions East 2008
Web Directions East 2008レポート
Tim Berners-Lee
Andy Budd(Web Directions East 2008)
Mike Migurski(Web Directions East 2008)
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