「まだ使える」は資産。「いつか使う」は負債。資産価値で見るモノの判断基準

押し入れの奥、クローゼットの上段、ガレージの隅。今、頭の中に浮かんだその場所には、おそらく何かが眠っているはずです。「まだ使える」「いつか使うかもしれない」と思いながら、もう何年も触れていないモノたち。

メルカリが2025年に公表した調査によると、日本の家庭に眠る「かくれ資産」の総額は約90兆5,352億円。国民1人当たりに換算すると、平均71.5万円分のモノが、使われないまま家のなかに静かに居座っています。

「賢者の選択」主筆の一条理です。私はかつて外資系の経営コンサルティングファームで、企業のサプライチェーン改革や在庫最適化のプロジェクトに数多く関わってきました。企業の世界では当然のように「在庫は負債」として扱われ、回転率という指標で常時管理されます。なのに、なぜ家庭の在庫だけは「思い出」や「いつか」という言葉で守られ、合理的な判断の対象から外されてしまうのでしょうか。

この記事では、企業会計の世界で当たり前に使われている「資産と負債」という思考のフレームを、家庭のモノに当てはめてみます。感傷ではなく、データと論理で。あなたの家のなかに眠るモノが、本当に「資産」なのか、それとも「負債」なのか。判断するための物差しを、ここで一緒に手に入れていきましょう。

家庭にも存在する「バランスシート」という発想

企業には貸借対照表(バランスシート)があります。左側に資産、右側に負債と純資産。経営者はこの一枚の紙を見て、自社の財務状態を瞬時に把握します。

実は、家庭にも見えないバランスシートが存在します。預金や不動産といった目に見える資産だけではありません。押し入れのなかの段ボール、クローゼットを占領する着なくなった服、リビングボードの奥で眠る家電。これらすべてが、家庭の「資産勘定」あるいは「負債勘定」のどちらかに属しているのです。

問題は、多くの人がその区別をつけずに、ただ「保有しているモノ」として一括りにしてしまっている点にあります。

会計が教える「資産」と「負債」の本質

国際会計基準(IFRS)では、資産と負債を次のように定義しています。

項目定義
資産過去の事象の結果として企業が支配し、将来の経済的便益が流入することが期待される資源
負債過去の事象の結果として生じた現在の義務で、その決済により経済的便益を体現する資源の流出が予想されるもの

重要なのは、両者を分ける軸が「将来の経済的便益をもたらすか、奪うか」という一点にあることです。簿価がいくらだったか、購入時にいくら払ったかは関係ありません。今後、便益を生むなら資産。便益を奪うなら負債です。

この定義を家庭に持ち込むと、見え方が一変します。10万円で買ったゴルフクラブも、3年間使っていなければ「将来の便益」は限りなくゼロに近い。一方で、それが置かれている収納スペースには家賃が発生し、メンテナンスには時間も労力もかかります。便益はゼロ、犠牲はプラス。これは会計上、明確に「負債」です。

「保有」しているだけでは資産にならない

ここで多くの人が引っかかるのが、「でも、捨てたら本当にゼロになる。とっておけば、いつか売れるかもしれない」という発想です。

会計の世界ではこれを「簿価」と「市場価値」の混同と呼びます。10万円で買ったから、まだ10万円の価値があるはず。この感覚は、企業会計でも個人の頭のなかでも、繰り返し合理的判断を狂わせてきました。

実際には、モノの市場価値は購入した瞬間から下落を始めます。スマートフォン、家電、衣類、ブランド品。例外なく、時間の経過とともに価値は減衰します。「保有しているから資産」ではないのです。「将来、便益を生むモノ」だけが資産なのです。

「まだ使える」と「いつか使う」の決定的な違い

ここから本題に入ります。多くの人が混同している「まだ使える」と「いつか使う」という二つの表現。一見似ていますが、本質的にはまったく違うものを指しています。

「まだ使える」は、機能や状態に関する事実の記述です。「壊れていない」「動作する」という客観的な状態を表します。

一方、「いつか使う」は、未来の使用意図に関する希望の表明です。「使うかもしれない」という、確率的にも時期的にも極めて曖昧な期待を含みます。

この二つを混同したまま、「まだ使えるから取っておこう=いつか使うかもしれないから取っておこう」と判断してしまう。ここに不用品が増え続ける根本原因があります。

「まだ使える」モノが資産である3つの条件

「まだ使える」モノが本当に資産として機能するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。

条件説明
1. 使用頻度直近1年以内に実際に使用した、または明確な使用時期が決まっている
2. 市場価値中古市場で売却した場合、現在も値がつく
3. 維持コスト保管や管理にかかるコストが、得られる便益を下回る

3つの条件のうち、ひとつでも欠ければ、それは「資産の顔をした負債」です。たとえばクラシックカメラを月1回必ず持ち出して撮影するなら、それは資産。中古市場で5万円の値がつき、保管にも特別なコストがかからない。これは間違いなく資産勘定に分類されます。

「いつか使う」モノが負債である4つの根拠

逆に、「いつか使う」モノは、次の4つのコストを家計に発生させ続けています。

  • 保管コスト:場所を占有することで発生する機会費用
  • 維持・管理コスト:清掃、整理、状態維持にかかる時間と労力
  • 価値減衰コスト:時間経過によるリセールバリューの低下
  • 意思決定コスト:見るたびに「どうしようか」と判断する心理的負担

このうち、特に見落とされやすいのが「意思決定コスト」です。行動経済学者のダニエル・カーネマンは、人間の判断力は1日に使える総量が決まっているという「意思決定疲れ」の概念を提唱しました。クローゼットを開けるたびに「これ、どうしようか」と一瞬でも考える。その積み重ねが、本来もっと重要なことに使うべき判断力を消耗させているのです。

つまり「いつか使う」モノは、家賃と時間と価値減衰と判断力という、4種類のコストを毎日少しずつ家計から引き落とし続けている存在です。これを「負債」と呼ばずに何と呼ぶでしょうか。

数字で見る「いつか使う」の本当のコスト

ここからは、もう少し具体的な数字に踏み込みます。「いつか使う」モノが家計に与えているコストは、感覚的に想像するよりもはるかに大きいのです。

保管コストの試算

総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査によると、1住宅当たりの延べ床面積の全国平均は90.86㎡。居住室の畳数は32.49畳となっています。

仮にこの住宅の家賃または住宅ローン返済額を月12万円とすると、1畳当たりの月額コストはおよそ3,700円。年間にすると約4.4万円です。

ここに、家賃が高い都市部の数字を当てはめると、コストの規模感はさらに膨らみます。

立地1畳あたりの月額コスト目安1畳を1年占有した場合
地方都市の標準的な住宅約3,000円約3.6万円
首都圏郊外の住宅約4,500円約5.4万円
都心部のマンション約8,000円約9.6万円
都市部のトランクルーム(屋内型)約9,000円約10.8万円

押し入れ1畳分のスペースを「いつか使う」モノで占領していると、地方でも年間3万円台、都心部なら10万円近い「見えない家賃」を毎年支払い続けている計算になります。10年で30万円から100万円。決して無視できる金額ではありません。

しかも、これはあくまで「1畳」での試算です。実際にはクローゼット、押し入れ、納戸、ガレージなど、複数のスペースが「いつか使う」モノに占有されているケースがほとんどでしょう。

価値減衰コストはほぼ確実に発生する

保管コストと並んで重大なのが、価値減衰コストです。モノの市場価値は時間とともに下落し続けます。例外はほとんどありません。

たとえばiPhoneの場合、購入から1年後の中古買取相場はおよそ新品価格の70〜80%。2年後には35〜50%、3年後には23〜35%にまで下落します。「いつか売ろう」と思っているうちに、価値は雪解け水のように溶けていくのです。

経過年数iPhone(Proモデル)の残存価値目安価値減衰額(10万円購入の場合)
1年後70〜80%約2〜3万円減
2年後35〜50%約5〜6.5万円減
3年後23〜35%約6.5〜7.7万円減
5年後10%前後約9万円減

家電も同様です。一般的に5年が買取可能な目安とされており、それを超えると中古市場での価値はほぼゼロに近づきます。「もう少し待ってから売ろう」という判断は、ほぼ確実に損失を拡大させる行為です。

つまり、「いつか使う」と判断を先送りすることは、保管コストを払いながら価値を毀損するという、二重の損失を抱え込む選択にほかなりません。

「いつか」が来る確率はそれほど高くない

「でも、本当に使う時が来るかもしれない」。そう思う気持ちは理解できます。では、データに基づいて確率を考えてみましょう。

メルカリの2025年版「かくれ資産」調査によると、家庭内の「使われていないモノ」の品目別内訳は以下のとおりです。

  • ファッション用品:33.6%
  • ホビー・レジャー用品:22.2%
  • 書籍・音楽・ゲーム:21.2%
  • 家具・家電・小物:20.0%
  • 美容・健康グッズ:2.9%

注目すべきは、これらの品目はいずれも「1年以上使用されていないモノ」と定義されている点です。1年触れていないファッションが翌年に着られる確率は、統計的にも経験則的にも極めて低い。トレンドの変化、体型の変化、ライフスタイルの変化。すべてが「使わない」方向に作用します。

「いつか使う」の「いつか」は、多くの場合、永遠に訪れません。これは精神論ではなく、数字が示している事実です。

なぜ私たちは「いつか使う」を手放せないのか

数字で見ればこれほど明白なのに、なぜ私たちは「いつか使う」モノを手放せないのでしょうか。その答えは、行動経済学の研究のなかにあります。

保有効果(エンダウメント効果)の罠

1970年代、経済学者のリチャード・セイラーは、人間が一度自分のものになったモノを過大評価する傾向があることを発見しました。「保有効果(エンダウメント効果)」と呼ばれる現象です。

有名な「マグカップ実験」では、被験者に大学のロゴ入りマグカップを配布し、その後「いくらなら売るか」と尋ねたグループと、「いくらなら買うか」と尋ねたグループに分けました。結果、売り手の希望価格は買い手の支払い意思額のおよそ2倍に達したのです。手元にあるだけで、人はそのモノの価値を2倍に感じてしまう。

家庭の押し入れに眠る不用品も、まったく同じメカニズムで「実際の市場価値以上に大切なもの」として認識されています。冷静に考えれば3,000円で売れるかどうかのモノが、本人の頭のなかでは「8,000円くらいの価値はあるはず」と評価されている。だから手放せない。

サンクコスト効果と「もったいない」

もうひとつの強力な罠が、サンクコスト効果です。「もう取り戻せない過去の支払い」に引きずられて、将来の判断を歪めてしまう現象を指します。

「10万円で買ったのに、3,000円でしか売れないなんてもったいない」。この感覚は、経済合理性の観点では完全に誤りです。10万円はすでに支払われ、戻ってきません。今、判断すべきは「3,000円で売る」のか「保有を続ける」のか。この二択であり、過去の支払額10万円とは無関係です。

合理的な判断のためには、過去の支払いではなく、機会費用に注目する必要があります。保有を続ける場合の機会費用は、保管コスト+価値減衰コスト+意思決定コスト。これらの合計が3,000円を超えるなら、今売るのが正解です。「もったいない」という言葉は、本当はこの計算をしないことに対してこそ使うべきなのかもしれません。

現状維持バイアス

そして最後の壁が、現状維持バイアスです。人間は特別な理由がない限り、現状を変えるよりも維持することを好みます。

ここで重要なのは、「決めない」ことも、ひとつの「決定」だという事実です。クローゼットを開けて見つけたコートを今日も判断保留にすることは、「今日もこのコートに対して保管コストを支払い、価値減衰を受け入れる」という決定にほかなりません。

「いつか考えよう」と思った瞬間に、あなたはコストを支払う側に立っています。何もしないことのコストは、私たちが想像するよりずっと高いのです。

資産と負債を見分ける「3つの問い」

ここまでの議論を踏まえて、家庭のモノを「資産」と「負債」に仕分けるための実践的な思考フレームを提示します。

迷ったら、以下の3つの問いを順番に投げかけてみてください。

問い1:直近1年以内に使ったか?

まず最初に問うべきは、「過去1年以内に、このモノを実際に使ったか」です。

なぜ1年か。それは、季節性のあるモノを少なくとも1サイクル経験した期間だからです。冬服も水着もスキー板も、1年あれば必ず使う機会が訪れています。その1年間に一度も使わなかったということは、ライフスタイルのなかに「使う機会」が組み込まれていない事実を示しています。

メルカリが「かくれ資産」の対象としているのも、「1年以上使っていないモノ」です。1年という基準は、感覚的な目安ではなく、リユース市場のプロが採用している実務基準でもあります。

この問いに「いいえ」と答えるなら、次の問いに進みます。

問い2:今売ったらいくらになるか?

次に、現時点での市場価値を調べます。査定アプリ、買取サービス、フリマアプリの相場検索。今は数分で概算が分かる時代です。

ここで「思っていたより安い」と感じる方が大半でしょう。しかし、それこそが現実の市場価値です。保有効果に惑わされていた自分の評価額と、市場の評価額のギャップを直視してください。

そしてもうひとつ重要なのは、その金額は今後さらに下がっていくという事実です。今日の査定額は、半年後にはもっと低くなります。「今売ればいくら」を知ることは、未来のコストを可視化する作業でもあります。

問い3:1年保有し続けた時の総コストは?

最後の問いが、判断の決定打になります。「このモノを今後1年間保有し続けた場合、いくらのコストが発生するか」を試算するのです。

1年間の総コストは、おおむね次の式で算出できます。

コスト項目算出方法
保管コスト占有面積(畳) × 1畳あたり月額家賃 × 12ヶ月
価値減衰コスト現在の査定額 − 1年後の予想査定額
管理コスト清掃・整理にかかる年間時間 × 時給換算

これら3つを合計し、現在の査定額と比較します。1年保有のコストが査定額を上回るなら、答えは明確です。今、売る。これが経済合理性に基づいた正解です。

「賢者の選択」としての売却

ここまで、家計の経済合理性という観点から「資産」と「負債」を整理してきました。最後に、もうひとつ重要な視点を加えます。

それは、売却という行為が、単なる個人の損得勘定にとどまらないという事実です。

リユース経済新聞の調査によれば、日本国内のリユース市場規模は2024年時点で3兆2,628億円、15年連続で拡大を続けています。2030年には4兆円規模に達する見通しです。さらに環境省は2025年6月、「リユース等の促進に関するロードマップ」を公表し、循環経済市場全体を2030年までに50兆円から80兆円規模に拡大する目標を打ち出しました。

リユースとリサイクルの違いについては三井物産の解説が分かりやすいのですが、リユースは新たに製品を作るための資源やエネルギーを消費せず、もっとも環境負荷の低い循環方法とされています。一度作られたモノを最後まで使い切る。そのために売却し、次の使い手に渡す。これは個人の経済的利益と、社会全体の資源循環という二つの目的を同時に達成する稀有な行動です。

詳しい市場動向については、2025最新版リユース業界の市場規模と成長領域・将来性も参考になります。中古スマホ市場が前年比22.4%増で1,000億円を突破するなど、これまで「価値が落ちやすい」とされてきた製品にも、確かな需要が生まれています。

つまり、家庭の負債を整理し、資産価値のあるうちに売却することは、家計の改善であると同時に、サーキュラーエコノミーへの一票を投じる行為でもあります。経済合理性と社会的合理性が一致する選択。これこそが、私が考える「賢者の選択」の本質です。

まとめ

ここまで、「まだ使える」と「いつか使う」の違い、家庭のバランスシート、保管コストと価値減衰コストの試算、行動経済学が明かす判断の罠、そして売却の社会的意義について論じてきました。要点を整理しておきましょう。

  • 「資産」とは将来の便益をもたらすモノであり、「負債」とは将来の経済的犠牲を強いるモノ
  • 「まだ使える」と「いつか使う」は本質的に異なり、後者は4種類のコストを発生させる負債
  • 押し入れ1畳の保管コストは年間3〜10万円、価値減衰コストはそれを上回るケースも多い
  • 保有効果、サンクコスト効果、現状維持バイアスが合理的判断を妨げている
  • 「過去1年以内に使ったか」「今いくらで売れるか」「1年保有のコストはいくらか」の3つの問いで仕分ける
  • 売却は家計改善とサーキュラーエコノミーの両立を実現する行動

人は感情の生き物です。そして、感情はしばしば判断を曇らせます。だからこそ、私たちには数字という道具が必要です。数字は嘘をつきません。家計のバランスシートを正直に見つめ、資産と負債を区別し、合理的に判断する。その先には、家のなかが片付くという以上の便益が待っています。

時間の余裕、判断力の余裕、そして経済的な余裕。これらすべてが、適切な選別と売却の結果として得られるものです。

押し入れを開けてみてください。クローゼットを覗いてみてください。そして、ひとつずつ問いかけてみてください。「これは資産か、それとも負債か」と。答えはきっと、すでにあなたのなかにあります。あとは、その答えに従って行動するだけです。

数字と向き合う準備ができたなら、今日が始まりの日です。